医療機関の紹介手数料はなぜ高い?
厚労省データと日本医師会提言から読み解く問題の構造

医療業界では2010年代初めから、有料職業紹介事業の高額な紹介手数料が繰り返し問題視されてきました。2026年3月には、日本医師会と四病院団体協議会が合同で「有料職業紹介事業に関するワーキンググループ報告書」を公表し、国への具体的な提言をまとめています。この記事では、公的データと最新の提言をもとに、問題の構造と医療機関が今からできる対策を整理します。
01医療機関の何割が人材紹介を使っているか
福祉医療機構「2025年度病院の人材確保に関する調査結果」によると、常勤医師を募集する際に使用した媒体・経路(複数回答)としては「人材紹介会社」が78.4%で最も高く、「採用に結び付く効果がもっとも高かった媒体・経路」でも人材紹介会社が43.9%とトップでした。医師以外の正規職員の募集では、ハローワーク(89.0%)や病院ホームページ(84.0%)の利用率も高いものの、効果面では人材紹介会社が73.6%で最も高い評価を得ています。
多くの医療機関にとって人材紹介は、使わざるを得ないだけでなく、実際に効果を実感している手段でもあります。その分、依存度が高まるほど手数料負担も増していくという課題が生まれています。
02手数料総額は5年でどう変わったか
厚生労働省「職業紹介事業報告書の集計結果」によれば、2023年度における紹介手数料の総額は、医師が約247.6億円、看護職が約579.9億円、介護職が約233.8億円に達しています。特に看護職は2019年度の378.7億円から2023年度の579.9億円へと、5年間で約53%増加しました。
紹介手数料総額の推移(億円)
- 医師:2019年度211.9億円 → 2023年度247.6億円
- 看護職:2019年度378.7億円 → 2023年度579.9億円(約53%増)
- 介護職:2019年度217.9億円 → 2023年度233.8億円
物価や人件費の上昇で経営環境が厳しさを増すなか、紹介手数料の負担増は医療機関の収益を圧迫する要因になっています。診療報酬という公定価格の中で運営せざるを得ない医療機関には、この採用コストを価格に転嫁する手段がありません。診療報酬のベースアップ評価料の新設以降、紹介手数料が上昇しているとの指摘もあり、処遇改善に充てられるべき財源が人材紹介業界へ流出しているのではないかという懸念が示されています。
03「困りごと・トラブル」を抱える医療機関は8割
厚生労働省委託「職業紹介業に関するアンケート調査報告書」(2023年3月、三菱UFJリサーチ&コンサルティング)では、医療・介護・保育の3分野とそれ以外の分野で、有料職業紹介サービスの満足度に大きな差があることが明らかになっています。
医療・介護・保育3分野の特徴
- 「特に問題はない」と回答した割合:20.4%(3分野以外は54.8%)— 裏を返せば約8割が何らかの問題を経験
- 紹介された人材がすぐに離職してしまう:56.8%(3分野以外は16.5%)
- 求人条件と合わない応募者が紹介される:25.8%(3分野以外は21.5%)
- 紹介手数料に「不満」「やや不満」:82.0%(3分野以外は41.6%)
- 採用した人材の定着に「不満」「やや不満」:50.8%(3分野以外は16.1%)
他分野と比べて、医療・介護・保育の分野だけがこれほど際立って不満を抱えている背景には、「手数料の高さに見合うだけのマッチングの質が伴っていないのではないか」という現場の実感があります。
ヒポくんメモ「紹介手数料が高い」こと自体より、「高い手数料を払ってもすぐ辞められてしまう」ことのほうが、現場にとってはずっと痛手なんだ。この2つはセットで考える必要があるよ。
04早期離職とお祝い金問題
厚生労働省の公表資料によると、就職後6か月以内の離職率は、医師が平均3.0%、看護が平均10.5%、保育が12.2%、介護が15.3%(いずれも2022年度実績)と、他の職種(法人・団体管理職員4.9%、情報処理・通信技術者2.9%など)に比べて高い水準にあります。手数料率自体は他分野の方が高いケースもあるものの、医療・介護・保育の3分野は「手数料は高いのに定着しない」という傾向が際立っているのです。
この背景の一つとして問題視されてきたのが、事業者が求職者に転職を促す「お祝い金の提供」や「2年以内の転職勧奨」です。職業安定法に基づく指針でこれまでも禁止されてきましたが、電話やメールによる転職勧奨がその後も行われているとの報告があり、実効性の面で課題が残っていました。
052025年からの規制強化
こうした状況を受け、規制は段階的に強化されています。
- 2025年1月:「お祝い金等の提供の禁止」および「転職勧奨の禁止」が、職業紹介事業の許可条件に加えられました。
- 2025年4月:募集情報等提供事業(求人サイト等)についても、お祝い金の提供が禁止されました。
- 2025年4月:職種ごとの常用就職1件あたりの平均手数料率を、厚生労働省の「人材サービス総合サイト」に掲載することが義務化されました。
- 2025年4月:サービスの利用料金・違約金について、発生条件や内容を求人者にわかりやすく明示することが指針で義務付けられました。
また、2023〜2024年にかけて厚生労働省が実施した集中指導監督では、対象事業者の約6割で違反が指摘されており、業界全体の適正化がなお途上であることがうかがえます。
06日本医師会・四病院団体協議会が求める対応
2026年3月に公表された報告書で、日本医師会・四病院団体協議会は次のような提言をまとめています。
主な提言内容
- 紹介手数料率の上限規制の緊急導入:経営基盤や地域医療提供体制の持続性を守るための緊急措置として要望。
- 返戻金制度の義務化・返戻水準の標準化:現状の返戻率(1か月以内で50%前後、3〜6か月以内は5〜10%程度)は「採用・教育コストに見合わない」として、より長期・高率な設定を要望。
- 定着期間に応じた成果型報酬体系の導入:事後的な返戻より、定着の達成度に応じて手数料を確定させる仕組みを提案。
- 手数料の個別具体的な金額明示の義務化:求職者に対しても、医療機関側が負担する手数料の実額を伝えることで、安易な離職の抑制効果を期待。
- 指導監督の強化と情報公開の拡大:定期的な指導監督の実施、悪質事例の公表、離職者数のさらなる見える化を要望。
あわせて、ハローワークの「人材確保対策コーナー」や都道府県ナースセンター、日本医師会ドクターバンクといった公的な無料職業紹介の活用促進も、負担軽減の重要な選択肢として位置づけられています。令和8年度からは、全国544か所のハローワークで医療・介護・保育分野への訪問型支援(アウトリーチ支援)が本格的に始まる予定です。
07医療機関が今からできる対策
国や業界団体レベルの制度改善には時間がかかりますが、医療機関側で今からできることもあります。
- 事業者選定時に「人材サービス総合サイト」を確認する:手数料実績、6か月以内の離職者数、認定事業者かどうかを事前にチェックする。
- 契約書の返戻金・違約金条項を必ず確認する:特に「不採用後、別ルートで採用した場合の違約金」条項はトラブルの元になりやすいため要注意。
- ハローワーク等の無料職業紹介を併用する:紹介手数料そのものの負担を抑える選択肢として活用する。
- 入職前の見極めを強化する:紹介手数料の高さに見合うだけの定着が得られているかを、面接に加えたリファレンスチェックのような手段で確認し、早期離職のリスクを下げる。
08よくある質問
Q. お祝い金や転職勧奨はもう禁止されているのですか?
職業安定法の指針で以前から禁止されていましたが、2025年1月からは職業紹介事業の許可条件そのものに位置づけられ、規制がより実効性のあるものになりました。2025年4月からは求人サイト等の募集情報等提供事業にも同様の禁止が適用されています。
Q. 紹介手数料に上限はありますか?
2026年8月時点では、法令上の一律の上限は設けられていません。日本医師会・四病院団体協議会が上限規制の緊急導入を国に要望している段階です。
Q. どの事業者を選べばよいか判断できません。
厚生労働省の「人材サービス総合サイト」で手数料実績や離職者数を確認するほか、「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度」の認定事業者かどうかも一つの判断材料になります。


