病院の離職率はなぜ高い?
看護師11.0%・医師の早期離職データから見る原因と対策

「せっかく採用できたのに、また辞めてしまった」。多くの医療機関が抱えるこの悩みは、感覚だけの話ではありません。この記事では、日本看護協会や厚生労働省の最新データをもとに、病院の離職率が高いと言われる実態と、その背景にある原因、そして採用段階・入職後でできる対策を整理します。
01病院の離職率、実際の数字
日本看護協会「病院看護実態調査」によると、2024年度の正規雇用看護職員の離職率は11.0%でした。2023年度の11.3%からはやや改善していますが、依然として高い水準です。特に注目したいのは、新卒採用者と既卒(中途)採用者で離職率に大きな差がある点です。
看護職員の離職率(日本看護協会「病院看護実態調査」)
- 正規雇用看護職員全体:2023年度11.3% → 2024年度11.0%
- 新卒採用者:2023年度8.8% → 2024年度8.4%
- 既卒(中途)採用者:2023年度16.1% → 2024年度16.1%(横ばい)
既卒採用者の離職率は新卒の約2倍という状態が続いています。新人教育プログラムが整っている新卒採用に対し、中途採用は即戦力として現場に配置されることが多く、職場との相性やスキルのミスマッチが起きても表面化しやすいことが背景にあると考えられます。
紹介会社経由の採用に限ると、早期離職の傾向はさらに際立ちます。厚生労働省の公表資料では、就職後6か月以内の離職率は看護が平均10.5%、医師が平均3.0%(いずれも2022年度実績)となっており、法人・団体管理職員(4.9%)や情報処理・通信技術者(2.9%)といった他職種と比べても、医療分野の離職率の高さがうかがえます。
02看護師の離職率が高い主な原因
看護師の早期離職の背景には、複数の要因が重なっていることが多いといわれます。
- 入職前のイメージと現場のギャップ:「面接ではすごく良かったのに、配属後の働きぶりが想定と違った」という声は、採用担当者からよく聞かれます。
- 夜勤・当直を含む勤務負荷:体力的な負担や生活リズムの変化に、想定以上のストレスを感じるケース。
- チーム医療でのコミュニケーション:スキルは十分でも、多職種連携や既存スタッフとの相性でつまずくケース。
- 受け入れ体制の不足:入職直後のフォローが手薄だと、小さな違和感が「合わない」という結論に変わりやすくなります。
これらの要因は、面接や履歴書だけでは見抜きにくいという共通点があります。入職前の情報収集の質が、その後の定着を左右する重要な要素になるのはそのためです。
ヒポくんメモ「面接ではすごく良かったのに…」って声、本当に多いんだ。面接は候補者にとっても“よく見せる場”だから、それだけで判断するのはどうしても限界があるんだよ。
03医師が「すぐ辞める」と言われる理由
医師の6か月以内離職率は平均3.0%と、看護師や他職種に比べれば低い水準です。ただし、1人あたりの紹介手数料が平均335.9万円(東京都病院協会調査)にのぼることを踏まえると、離職1件あたりの経営インパクトは非常に大きく、「医師の早期離職」は件数以上に病院経営への影響が語られやすいテーマです。
医師特有の早期離職の背景としては、次のような要因が挙げられます。
- 当直・オンコール体制など、想定していた勤務条件との相違
- 専門領域や症例数など、キャリア形成上の期待とのミスマッチ
- 医局や経営層との関係性、意思決定プロセスへの戸惑い
- 都市部への人材集中による、地方medical機関での定着の難しさ
福祉医療機構の調査で「常勤医師の採用に最も効果があった媒体」として人材紹介会社が43.9%でトップだったことからもわかる通り、医師採用の多くは紹介会社経由で決まります。紹介を受けた段階での見極めの質が、そのまま定着率に直結しやすいのはこのためです。
04早期離職とミスマッチの関係
日本医師会・四病院団体協議会の報告書(2026年3月)では、医療・介護・保育分野の求人側のうち56.8%が「紹介された人材がすぐに離職してしまう」ことを課題として挙げています(3分野以外は16.5%)。この差は、単なる「相性の問題」だけでは説明がつきません。
報告書では、求人側が求める条件に合致しない人材の紹介や、求職者のスキル・能力が事前情報と異なるケース、十分なヒアリングを行わずメール中心の簡易なやり取りでマッチングが進められるケースなどが、ミスマッチの一因として指摘されています。高額な手数料を払っても、マッチングの精度が伴わなければ早期離職のリスクは下がりません。離職率の高さと紹介手数料の問題は、根っこの部分でつながっています。
05採用段階でできる対策
離職率を下げるための取り組みは、入職後だけでなく採用段階から始まっています。
- 求人票の情報を具体的にする:勤務条件や職場の雰囲気を具体的に伝えることで、入職後のギャップを事前に減らせます。ハローワークでは求人票の書き方についてのアドバイスも受けられます。
- 面接だけに頼らない見極めを行う:面接は候補者・面接官双方にとって「よく見せる/見られる」場になりやすく、実際の働きぶりを把握するには限界があります。
- 第三者からの情報を加える:一緒に働いた上司・同僚に働きぶりを確認するリファレンスチェックは、面接や書類だけではわからない「勤怠の安定性」「チームでの協働姿勢」を補う手段として注目されています。
- 紹介会社任せにしない:紹介された候補者の経歴や過去の転職回数を医療機関側でも確認し、ミスマッチの兆候を早期に把握します。
06入職後の定着支援でできること
採用時の見極めを強化しても、入職後のフォローがなければ定着にはつながりません。日本医師会・四病院団体協議会の報告書でも「人材の定着は、受け入れる医療機関側の主体的な取り組みなしには実現しない」と指摘されています。
- 入職直後のメンター・プリセプター制度:小さな違和感を早期に拾い、相談できる相手を用意する。
- 処遇改善とワークライフバランスへの配慮:夜勤・当直の負担を可視化し、公平な配置を心がける。
- 定期的な面談によるフォローアップ:入職後1か月・3か月など節目でのヒアリングを制度化する。
- 職員の意見を反映した業務改善:現場の声を拾い上げる仕組みがあること自体が、定着への安心感につながります。
07よくある質問
Q. 看護師の離職率は年々改善していますか?
日本看護協会の調査では、正規雇用看護職員の離職率は2023年度11.3%から2024年度11.0%へとやや改善しています。ただし既卒(中途)採用者の離職率は16.1%で横ばいが続いています。
Q. 医師の離職率が低いなら、医師の早期離職は問題視しなくてよいですか?
離職率自体は看護師より低いものの、1件あたりの紹介手数料が高額なため、離職1件が経営に与える影響は大きくなります。件数だけでなく「1件あたりの損失規模」も踏まえて捉える必要があります。
Q. リファレンスチェックは離職率対策にどう役立ちますか?
面接だけでは把握しにくい勤怠の安定性やチームでの協働姿勢を、一緒に働いた第三者の視点から確認できます。入職前の情報の解像度を上げることで、入職後のミスマッチによる早期離職のリスクを下げやすくなります。


